お客さまのご関心は高い、でも説明が専門的になって難しいし言い訳がましくなるので、我々印刷会社としてはあまり触れたくない…。
今回はそんな禁断のテーマ「品質」について解説させていただきます!
萬印堂の企業秘密に触れない範囲で、正直にお話したいと思います。

1.そもそも製品の「品質」って?

よく「この製品は品質が良い/悪い」といったことを耳にしますが、そもそも「品質」とは何でしょうか。
「品質が良い/悪い」とはどういう基準で判断するのでしょうか。

ちょっと小難しいお話ですが、ISO(ものづくりの国際規格)では、「品質」の定義を「本来備わっている特性の集まりが、要求事項を満たす程度」と定めています。

つまり、個々のお客様からの要求事項(≒期待)があった上で、それを満たしているかどうか、が品質の良い/悪いの判断基準になります。

例えば自分用にお菓子を買ったとき、そのパッケージの印刷が1cmくらいズレていたとします。
多くの人は、お菓子そのものの味に期待していて、パッケージの印刷精度に期待していないので、それを「不良品」とは呼ばないでしょう。
しかし、例えばそれが大切な人への贈答品だった場合、「不良品」と呼ぶかもしれません。贈答品でなかったとしても、パッケージが大好きでコレクションしている人にとっては、「不良品」かもしれません。
また、商品価格が100円なのか1万円なのか、によっても判断は変わってくるかもしれません。

このように、「品質」の判断基準は個々人の感覚や場面によって大きく異なります。
ですので、企業間取引の場合は、あらかじめ何度も打ち合わせして細かく品質基準を合意しておきます。
製品を何万個も製造する場合、そこまでしておかないと後でトラブルになりかねないからです。

一方で小ロット印刷の場合、お客様とメーカーがいちいち打ち合わせをしていると割に合いませんので(打ち合わせにも人件費がかかり、それを料金に反映するととんでもない料金になってしまう)、細かい品質基準を決めていないか、もしくはメーカー側が一方的に決めた品質基準に納得した上で発注いただくか、が実態です。
萬印堂でも、個々のお客様のご発注の都度品質基準を決めるのは現実的ではありませんが、無料相談会を開催してお客様が品質基準をご理解いただける機会をなるべくご用意するように努めております。

2.「公差」について

たとえば100円ショップで「高さ10cm」として販売されている収納ケースが実際は「高さ13cm」だったらクレームが発生するかもしれません。
では「高さ11cm」だったら?「高さ10.3cm」だったら?「高さ9.98cm」だったら…?

どんな製品でも、量産する際には、寸法などに必ず誤差が発生します。
メーカーは決めた仕様を目標に製造しますが、手作業の場合はもちろん、機械で製造していたとしても、どうしても若干の個体差が出ます。
その際の、良品として許容可能な最大と最小の差を「公差」と言います(「±1mm」など)。

精密な機械で製造し、また高価な検査機でチェックすれば公差を小さくすることができますが、もちろんその分コストは上がり、製品価格が上がります。
したがって最終的には、製品価格とのバランスでお客様からの要求事項(どこまで精密なものを求めるか)が決まり、品質の基準が決まります。

なお、印刷に関して言えば、「色」の品質基準が非常に厄介です。色の違いを数値化するのが難しいからです。
厳密に言うと、色を数値化することは可能ですが(濃度値やLab値など。非常に専門的なので割愛します)、色は、部屋の照明の種類や個々人の目の色など、環境や状態によって感じ方が異なるため、「数値が公差内だから良品」と割り切ることが難しいのが現実です。


3.ボードゲーム製造において発生する「不良品」の種類

じゃあボードゲームを製造する際に、具体的にどんな「不良」が発生するの?
という点を、萬印堂で行っている対策とともに細かくご説明していきます。


(1)キズ、汚れ、凹み

最も多いのがこのトラブルです。
印刷・加工時に発生するものもあれば、配送会社さんによる配送時、お客様が受け取り後の箱詰め時、などに発生する可能性があります。
これらの不良は、明確に基準を決めるのがほぼ不可能であり、実際には都度、人が判断するしかありません(「直径0.5mm以上のキズはNG、それ未満はOK」などとは割り切れないのが現実。汚れや凹みも、範囲は広いが目立たない場合から、範囲は狭いが目立つものまでさまざま)。


カードの傷

カードの傷

 

《萬印堂の対策》

製造の各工程で抜き取り検査(製品全てではなく一部を抜き取って検査すること)をしています。
また社内でトラブル情報を収集し、改善策を打って再発を防止する、といった品質管理の取り組みも行っています。
ただし、「キズ、汚れ、凹み」は現状では目視検査しかできず、100%検知するのは難しいのが正直なところです。
なお、全数検査を行うとなると膨大な人件費がかかるため、なるべく安価にご提供するべく、萬印堂では抜き取り検査を採用しています。

(2)色のトラブル

「データ制作時のPC画面での色」と「紙に印刷したときの色」は、表現方法が異なるので見え方が変わります(さらに言えば、データ上は同じ色でも、PC画面によって見え方は変わります)。
また、印刷機・インク・紙が異なると色も変わりますので、例えば初版と第2版で印刷会社を変えたとき、同じ印刷会社に依頼した場合でも印刷機の入れ替えがあったときなどは、色が変わる可能性が高いです。
ですので、そもそも「自分のPC画面の色と、紙に印刷した色を完全一致させることはほぼ不可能」という前提をご理解いただく必要があります。

また、印刷という製造原理の関係上、「淡い色」、特に「灰色」は、安定して表現しづらい色です(萬印堂に限らずどの印刷会社でも同じ)。
特に、萬印堂が使っている「デジタル印刷機」は、大量生産向きの「オフセット印刷」と比べて、「小中ロットでも割高にならず、かつ色域(印刷の美しさ)がほぼ同等」という点に大きな強みがありますが、「色の安定性」についてはオフセット印刷より劣ります。
したがって、カードごとに裏面の色味が微妙に異なることを絶対に避けたい場合は、

  • そもそも目立つ場所・面積で「淡い色」や「灰色」を使わないデザインにする
  • 特色を使ったオフセット印刷を選択する(ただし、オフセット印刷は大量印刷向けなので、小ロットで製造する場合、かなり割高になります。また特色は通常のカラー印刷の1.5倍程度と高額です)

といった印刷前段階での対策をしていただくのが最も有効です。

同じデータで印刷した「灰色」でもこのような色の差がどうしても発生します


《萬印堂の対策》

萬印堂は、ゲーム専門の印刷会社として、「プレイに支障があるかどうか」という観点での検査をしています。
特に「同一作品内のカード裏面の絵柄」の色の違いが極力発生しないように注意しています。
またそもそも「紙に印刷したときの色がどうなるか知りたい」という場合には、「色校正(事前にサンプル印刷して色を確認すること)」を有料オプションで承っています。

(3)ズレ

一般的に、紙加工品におけるズレの公差は「2mm程度」となっています。
弊社のテンプレートに限らずチラシなどでも、デザインの際に「3mmの塗り足し」が必要になっているのはそのためです。

紙は金属やプラスチックなどと異なり、温度や湿度によって大きく伸縮します。
これにより、製品の寸法や色にどうしても差が発生します。
また、ボードゲーム製造には、印刷、貼り合わせ、表面加工、抜き加工、など製造工程が多数あるため、各工程での微妙なズレが重なって大きなズレに繋がる可能性もあります。


左は1mmズレた状態

《萬印堂の対策》

とはいっても、特にカードやチップは2mmもズレていたらあまりに見栄えが悪いので、萬印堂としては極力1mm以内の誤差に抑えるよう努力しており、ズレ検知機能のある印刷機を使い、また出荷時の抜き取り検査も行っています。
なお、ズレが目立ちやすいかどうかはデザインにもよります。したがって、ズレが目立ちにくいデザインにしていただくことも非常に重要なポイントですので、コラムなどでもご案内をしております。

(4)化粧箱のノリ剥がれ

化粧箱は、硬いボール紙に、印刷した薄い紙を糊で貼り合わせることで作っています。
この糊が、乾燥条件などによって剥がれてしまうことがあります。

 

《萬印堂の対策》

貼り合わせ作業後、一定時間乾燥させた上で抜き取り検査をし、出荷しています。
ただし「出荷時には糊がくっついていたが、その後剥がれてしまう」というケースもあり、申し訳ないのですが100%防ぐことができません。
もちろんご連絡いただければ弊社で補修いたしますが、そこまで数が多くない場合は、綿棒と接着剤でご自身で補修いただく方が早い場合もあります。
アイロンやドライヤーを使って熱を加えることで糊の粘着力を戻す方法もありますが、箱を傷める可能性がありますので、ご利用の際は十分にご注意ください。

(5)化粧箱の噛み合わせ

化粧箱は、「フタ」と「身」で構成されていますが、この2つの噛み合わせが緩すぎず・キツすぎず、の絶妙な加減を狙って製造しています。
合っていないと、身が簡単に抜け落ちしてしまったり、開けづらい・閉めづらい、といったことになってしまいます。
製造時は良くても、その後温湿度の関係で紙が伸縮し、緩くなったりキツくなったりすることもあります。



《萬印堂の対策》

フタと身を別々に製造したのち、出荷時に組み合わせていますので、その際に噛み合わせは全数検査をしています。
ただし、上述の通り、出荷後に紙が伸縮することを防げないので、申し訳ありませんが噛み合わせの悪化を完全に防ぐことはできません。
お客様のお手元に届いた後にできる対策としては、「フタと身の組み合わせを変えてみる」です。
個体差がありますので、ちょうど良い噛み合わせのペアを作ることができる場合があります。

(6)カード丁合ミス

1セットのカードの中に、指定した種類のカードが重複しているor欠落している、といったことを「丁合ミス」と言います(トランプで言えば、ハートのAが2枚ある、スペードの3がない、など)。


《萬印堂の対策》

丁合ミスはカードゲームとして明確な不良品ですので、萬印堂では印刷・加工時に特に注意して全数検査しており、少なくとも過去5年間、丁合ミスは一切発生していません。
なお、チラシ印刷や名刺印刷が中心のネット印刷の会社でカードを作る場合、丁合ミスがあるというお話をたまに聞きますので、利用される場合はご注意ください。

4.「不良品」が届いたらどうすれば良いの?

「不良品」について長々とご説明してしまったので不安になってしまったかもしれませんが、多発するものではありませんのでご安心ください。
また、万が一不良品が納品された場合には、まずは萬印堂にご連絡ください。その際、不良の様子がわかる写真を併せて送っていただけると、我々も状況を早く認識することができます。
状況を確認させていただいた上で、良品との交換など誠意をもって速やかにご対応させていただきます。


不良品について詳細なお話をするのは印刷会社としてタブーに近いものですので公開するか悩みましたが、モノづくりの仕組みをお客様にもご理解いただき、一緒に良い作品を作っていきたい、という気持ちから、このようなコラムを書かせていただきました。

社員一同、これからも品質向上に努力していきますので、今後ともよろしくお願いいたします。